■目標
- 複数のグループ(処理・条件)の平均に差があるかを検定できる
- 平方和・自由度・分散比(F値)の意味を理解する
- 「群内」と「群間」のばらつきの構造を説明できる
【問題1】分散分析の目的
分散分析(ANOVA)の目的を簡潔に述べなさい。
解答・解説:
複数のグループ(例:条件A,B,C)の平均に有意な差があるかを、ばらつきの比較で判断する。
→ 「平均の差の検定(t検定)」を3群以上に拡張した手法。
▶︎分散を“分けて比べる”=Analysis of Variance(分散の分析)。
【問題2】基本構造(群間・群内)
A, B, Cの3条件でデータを取ったところ、
各条件でばらつき(群内分散)は似ている。
このとき、全体平均からのズレが大きければ何が言えるか?
解答・解説:
群平均が全体平均から離れている → 群間分散が大きい。
群内分散が小さい → 条件間に差がある可能性が高い。
→ 群間分散 ÷ 群内分散 が大きいほど“平均に差あり”と判断。
【問題3】平方和の定義(SS)
分散分析で使われる「平方和(Sum of Squares)」3種類を挙げ、その意味を述べよ。
解答・解説:
- 全体平方和(SST)=全データの総ばらつき
- 群間平方和(SSA)=各群の平均が全体平均からどれだけ離れているか
- 群内平方和(SSE)=各群内での個々のばらつき
関係式:
SST = SSA + SSE
▶︎分散分析では「全体のばらつきを、原因(群間)と誤差(群内)に分ける」。
【問題4】実データ例(計算ステップ)
3条件A,B,Cにおける測定結果が以下のとき、
群平均・全体平均を求めよ。
条件 | データ | 平均 |
---|---|---|
A | 4, 5, 6 | ? |
B | 7, 8, 9 | ? |
C | 6, 6, 6 | ? |
解答・解説:
A平均=(4+5+6)/3=5
B平均=(7+8+9)/3=8
C平均=(6+6+6)/3=6
全体平均=(4+5+6+7+8+9+6+6+6)/9=6.33
▶︎まず「群平均→全体平均」を出すのがスタート。
【問題5】平方和の計算例
前問の結果を使い、SSA(群間平方和)を求めよ。
解答・解説:
各群平均と全体平均の差の2乗×群の大きさ。
SSA=3×(5-6.33)²+3×(8-6.33)²+3×(6-6.33)²
=3×(1.77)+3×(2.78)+3×(0.11)
=3×4.66=13.98
▶︎群間平方和は「平均値の差」が大きいほど増える。
【問題6】群内平方和の計算
同じデータで、各群内の平方和SSEを求めよ。
解答・解説:
A:(4-5)²+(5-5)²+(6-5)²=2
B:(7-8)²+(8-8)²+(9-8)²=2
C:(6-6)²×3=0
合計SSE=2+2+0=4
【問題7】分散比(F値)の計算
SSA=13.98、SSE=4
群数k=3、総データn=9
分散比F=(MSA)/(MSE)を求めよ。
解答・解説:
自由度:
群間=k-1=2
群内=n-k=6
MSA=SSA/2=6.99
MSE=SSE/6=0.667
F=6.99 ÷ 0.667=10.48
▶︎F値が大きいほど「平均に有意差がある」可能性。
【問題8】有意差の判断(F分布表)
問題7のF=10.48、自由度(2,6)のとき、
有意水準5%のF₀.₀₅(2,6)=5.14とする。
このとき平均に差はあるか?
解答・解説:
F=10.48 > 5.14 → 棄却域に入る
よって「平均に差がある」と判断(有意差あり)。
▶︎分散比が大きければ「群間のばらつき > 群内のばらつき」。
【問題9】分散分析の前提条件
ANOVAを使うときの前提条件を3つ挙げよ。
解答・解説:
- 各群のデータは独立である
- 各群の母分散が等しい(等分散性)
- 各群が正規分布に従う
▶︎2級では丸暗記でOK。1級では**分散の検定(F検定)**で確認。
【問題10】1級につながる考察:要因効果の解釈
ある3種類の加工方法で得られた寸法データに差があることが分かった。
この結果をどう実務に活かすべきか?
解答・解説:
・統計的に差がある=「方法による影響が存在する」
・ただし「どの組が違うか」はANOVAだけでは分からない。
→ **多重比較(Tukey法・Bonferroni法)**が必要。
・差があったら「現場条件・作業要因・材料差」を再検証する。
▶︎QCは“統計で差を見つける”だけでなく、“改善へつなげる”ことが目的。
■計算まとめ表
名称 | 計算式 | 意味 |
---|---|---|
群間平方和 SSA | Σnᵢ(ȳᵢ-ȳ)² | グループ間の差 |
群内平方和 SSE | ΣΣ(yᵢⱼ-ȳᵢ)² | グループ内の誤差 |
全体平方和 SST | SSA+SSE | 全体のばらつき |
群間分散 MSA | SSA / (k-1) | 要因の分散 |
群内分散 MSE | SSE / (n-k) | 誤差分散 |
分散比 F | MSA / MSE | 平均に差があるか |
💡1級につながる視点
- 分散分析は「ばらつきの分解」。
→ SST=SSA+SSE の式は、QC七つ道具の背後の統計構造。 - 1級では「F分布の性質」「自由度」「帰無仮説(平均に差なし)」の定義まで踏み込む。
- さらに発展すると「二元配置ANOVA」「交互作用」「共分散分析(ANCOVA)」へ。